エステティックサロンのシステム開発
エステティックサロンのシステム開発
生徒の発想が理解できない。
だから、教え方は必ずしも上手ではなかった。
しかも市波コースは三年間である。
これもまた尋常ではない。
卒後研修でこんなに長期間を最初から設定しているものはない。
なぜ、こんなに長いのかというと、もちろん学習する分野が多岐にわたることもあるのだが、いかんせん先生の話自体が長い。
面白いけれども、脇道に外れてばかりいて、本題が進まないことが多かった。
「%ケ″という字がある。
首という字があって、点があって、しんにょうがある。
首(命)を懸けて頂点を目指すが、なかなかたどりつかない。
それが%ケ"だから剣道、柔道、茶道には道という字がつく。
医療も道でなければならない。
そう、∴纓テ道″だ。
′怐(悲)という字がある。
糸、言、糸の下に心と書く。
糸と糸がこんがらがって、言うに言えない心なんだ」と、始まるのである。
ふと、歯科の研修だったことを忘れるほど、内容の濃い講義だった。
しかし、この三年間は、戦後の管理教育を受けてきた者にとって、自分で考え、自分で学ぶという生き方の基本を得るための貴重な時間でもあった。
私が受けた市波コースの第三期は、一九八九年から一九九二年まで続いた。
コースが終わりに近づくにつれ、私は治療をするのが怖くなっていった。
これまで行ってきた治療が誤りであり、そして、事の重大さがわかってきたからである。
それまで患者さんのためと思ってやっていたことが、患者さんを治療するどころか、かえって患者さんの体を悪くしていた。
そう思うと、歯を削ることができなくなった。
従来の治療法、つまり歯科大で習ってきたやり方では、もう歯をいじることができなくなってしまったのである。
削れないので、治療らしい治療はできない。
そのために、歯科医院における私の収入はどんどんと減っていった。
前の年は歩合を含めて月額五〇万円ほどの給料が、しだいに歩合がゼロになり、基本給の二〇万円だけになってしまったのである。
しかし、兄が受けた心の傷は、私のそれよりはるかに深かった。
兄は私より先にこの業界にいるため、病人を作りつづけた歴史が長い。
だから、自分がよかれと思って行ってきたことが、∴ォ″だったという事実を受け入れるのに、辛い思いをしているのが横で見ていてよくわかった。
「いったい何のために歯科医院をやっているのだろうか」という自問自答の日々が続ひとたびいた。
一度、真理を知ってしまった以上、もはや以前の私たちには戻れなくなっていた。
以来、私たちは歯の噛み合わせと岨噂システムに関する内外の文献を読み漁り、解剖学や人類学の勉強を始めた。
一方で患者さんの口の中を、噛み合わせが整っているかどうかという眼で見つづけた。
そして、ようやく歯の治療とは虫歯を削って詰めることではな-、その人固有の噛み合わせ、岨噛システムを狂わせることなく維持することだという結論に達したのである。
それにしても、なぜ人間は、口の中に入ったものを無意識のうちに噛むことができるのだろうか。
食べ物をどうやって噛めばいいのか、などとじっくり考えることもなく、誰もがリズミカルにものを噛むことができる。
当たり前だと言う人もあるかもしれないが、よくよく考えてみれば、この仕組みは不可思議である。
岨噛システムがどのように機能しているかは、噛み合わせを考えるうえで、ひじょうに重要なことである。
だが、岨噂システムの研究は緒についたばかりであり、まだまだ発展途上の学問である。
岨噂システムの研究に限って言えば、欧米に比べて日本はかなり進んでいる。
日本では一九八六年に「岨噂システムの基礎的研究」を課題に文部省特定研究班が発足し、以来、本格的な研究が始められている。
岨噂システムについては、少し前まではまった-わかっていなかった。
私が学生の頃には、岨噂とは、「歯でものを噛んで潰す反射的な行動である」という説明があった程度だった。
だが、ここ10年あまりで研究は大きく進み、噛むという行為がひじょうに複雑な仕組みで成り立っており、体全体や精神にまで大きな影響を与えていることがわかってきた。
簡単に言うと、岨噂システムの中枢に当たるのは脳である。
口の中に食べ物が入ると、歯や舌、唇などで感知した情報が各神経系を通じて脳に伝えられる。
すると脳は適切なリズムでものを噛めるように、岨噛筋などの筋肉に指令を出す。
その食べ物が硬いか軟らかいかなどを感知して、さまざまな筋肉の動かし方を決めている。
たとえば、歯の根っ子には歯根膜神経が取り巻いているが、この神経が歯ごたえなどの情報を脳に伝える。
ご飯の中に小石が入っていたときなどに、思わず口を開け、歯にそれ以上のダメージを与えないのも、この神経と脳の連携プレーである。
こうしたさまざまな情報が、口と脳を間断なく行き交うのである。
また、数々の実験によって、岨噂という行為は、内分泌、生殖、排滑、循環、呼吸、消化、歩行、運動に関する器官にまで影響することがわかっている。
歯を通じて脳に感覚が入力されると、その情報が脳で処理され、末梢にまで伝わってゆく。
すなわち、口や歯というのは、全身の中でも特に重要な感覚器官なのである。
しかも、その感覚たるや繊細そのものである。
たとえ口の中いっぱいに食べ物を頬ぼっていても、その中に髪の毛が一本でも混じっていれば、それを取り出すことができるほどだ。
まさに神業というほかはない。
スーパー・コンピュータを何台つないだとしても、こういうことは再現できない。
脳の障害で寝たきりになっていた患者に、流動食ではなく、普通の噛んで食べる食事を与えたところ、食べられるようになるにつれて、立って歩けるようになったという報告がある。
また、痴呆症の人が、噛む食事を摂るようになってから、ボケがかなり回復したという話もある。
体内に入る栄養分はそれほど変わらないから、回復の陰にはものを噛むことが大きな力を発揮したことが明らかである。
岨噂という行為は、食物を口の中に入れるという点を抜きにしても、やはり生命維持の根本に関わる活動なのである。
これを解剖学的に説明すると、ものを噛むことによって、下顎頭の上にある静脈叢が引き下げられる。
そして、それが一種のポンプのような働きをして、脳内の血流をよくする。
この動きを指して、岨噂は第二の心臓であると主張している人がいるが、まさにそのとおりであると、私も思う。
ちなみに、これは、あくびの原理と同じである。
あくびも、やはり静脈叢を下げることによって、脳内の血液を入れ換えて眠気を覚まそうとする動作である。
このように、岨噂は脳と深いつながりがある。
だからこそ、第二次世界大戦のとき、アメリカではパイロットの眠気覚まし用の軍事食としてガムが採用されていた。
岨境と脳の関係については、朝日大学歯学部(現・学長)の船越正也先生が行った興味深い実験がある。
船越先生は、生まれて間もないネズミを二つのグループに分け、一方には硬いエサを、もう一方には粉末のエサを五週間与えつづけた。
そして、その後二つのテストを試みた。
1つ目は条件回避テストというもので、1定間隔でブザーが鳴ると、その直後に電流が流れる装置にネズミを入れておく。
もし、そのブザーが鳴っている間にレバーを押すと電流は流れない。
つまり、賢いネズミなら、レバーを押すことを学習して、電気ショックを回避することができる。
これを二〇日間続けた結果、両方のグループの間で、はっきりとした差が出た。
硬いエサを食べたグループの回避率は約四六パーセントだったのに対して、粉末のエサのグループは三〇パーセントと低かったのである。
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